Nocturne

2014

ストップモーションビデオ, ステレオ/ カラー, 4分14秒

このビデオは、雲のない満月の夜に、月を追いかけてフランス・ディジョンの街を東から西に縦断した記録ビデオである。約1500枚の写真からなるストップモーションビデオで、私が一歩進むごとに写真が1枚撮られる。私は月を追いながら、同時に月が建物のシルエットに沿って動いて見えるようにジグザクと歩く。夜に街中を歩いていると、建物によって月が見えたり見えなくなったりするが、「月がずっと見える道を歩きたい」と思ったのがこの作品の出発点である。


私にとって、月を扱うということは「相対的な関係」をテーマにしているということである。地球に住んでいる私たちの目からは、太陽も月も東から西に同じように弧を描き沈んでいく。しかし、地球は太陽の重力によって太陽の周りを回り、月は地球の重力によって地球の周りを回っている。同じように見えても、実際には、太陽の位置は不変であり、月の位置は地球との関係性によって決定されている。私にとって太陽は「絶対性」の、月は「相対性」の象徴である。


私はこのビデオの中で、月と、街によって、自分自身を位置付けてゆく。光がなく、距離感の失われた夜の世界で、時には手前の、時には後ろ側の建物のシルエットをなぞる。


私が歩いた足跡は一見そのシルエットと同じようになるが、私が歩くのと同時に月もまた動いているので、足跡と建物のシルエットは完全には一致しない。1時間に約15°動く月の動きによって、知らず知らずのうちにシルエットは変形している。


ビデオは日の出と共に終わる。昼間の太陽光の中では、私たちは1秒、1分という時間の単位や、方角や緯度や経度といった、きちんと定められた尺度を使用する。しかし私は、これらとは別の尺度を使ってものごとを測ることが出来ないかと考えた。このビデオは、月と街とが出会う物語であると同時に、私自身の散歩を計測した記録でもある。